{sampo}貝の壁

房総の魅力のひとつは、素朴な景色が多く残っていることだと思います。

とある場所にある、コンクリートに貼り付けられた貝。四角い壁の形がまるでキャンバスのようです。

僕はぽつんと佇んでいるこの貝の存在が、長らく気になっていました。

どういう経緯で生まれた景色なのだろうか?

この素敵な光景の秘密を知りたくて、ついにこの日、聞き込み調査を開始しました。

早速、畑道に入り、アルミカートを押しながら帰宅中のご近所さんにお話を聞くと、ある家を紹介されました。

教えられたお宅に着き、こんにちは。と同時にピンポンを押すと、女性が出てきてくれました。突然不思議な質問をしてしまったにもかかわらず、女性はこの壁の誕生秘話を教えてくれました。

貝の絵がある場所には以前、食堂があったそうです。数年前にお店は閉店され、建物は壊したとのこと。その食堂の名前が「丸美食堂」。ご自宅には食堂につけられていた立派な看板が移されていて、当時の食堂の雰囲気を感じさせてくれました。

そしてあの貝たちは、食堂をされていた時に、余ったものを貼り付けたのだそうです。これが僕の目を楽しませてくれる絵が生まれた理由でした。

僕はてっきり目立つようにしたかったなどの理由を想像していましたが、ただ貝が余っていたからというのを聞いて、この貝がある景色に惹かれる訳がわかった気がしました。

この貝の壁のように景色に馴染み、そっと心に溶け込んでくる美しい町並みや景色がこれからも生まれ、そしていつまでも残るといいなと思います。

写真・文 カマダ

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