{classic} ガス燈

千葉県で採れた天然ガスを千葉県内で消費する『千産千消』ガスによって、生活が支えられているここ大多喜町。日本の天然ガスの発祥の地ともされており、注意深く住宅地の路地を見てみると、千産千消ガスが都市ガスとして供給されていることを示す「大多喜ガス」と書かれたマークがあちこちに見られる。

そんなこの町を灯す三基の「ガス燈」。千産千消ガスの開発会社である「関東天然瓦斯開発」が建て、町に寄贈した『天然ガス記念館』の目の前に立っている。ガスマントルという網状の袋をガスの炎に被せることで明るく発光させるこのガス燈は、オレンジ色でちろちろと踊る小さな炎が絶え間なく、ここ大多喜駅前に常時灯されている。使われているのは、もちろん千葉県産の天然ガスだ。

このガス燈を見て思い出されるのは、サン=テグジュペリの名作『星の王子さま』で、王子が訪れた五番目の星の住人「点灯夫」である。一分ごとにせっせと街灯に火をつけたり消したりする彼は、日々のルーティーンワークに追われる人として描かれる。ガス燈を目の当たりにしたことで、急に物語の中の職業が現実味をおびて感じられた。実際、明治期の東京にも「点消方(てんしょうかた)」と呼ばれる、ガス燈の点灯と消灯を行う専門職がいたのだという。


ガスが電気に代わって明かりの主なエネルギーになった今日では、点灯夫や点消方がいなくともスイッチ一つで明かりを点けたり消したりできる。さらに時間により自動で点いたり消えたりする明かりまで存在するのだから、王子さまにも明治期の人々にとっても驚きであろう。


この便利さをあたりまえに享受している時代。ガス燈の近くに手を当てると、炎であることがわかる、たしかな温もり。明かりが元来「温かい」という概念すら忘れていた私に、エネルギーの価値とありがたみを教えてくれた。


写真・文 イシカワ

 




取材協力

大多喜町商工観光課

参考サイト

東京ガス『ガスとくらしの歴史』