｛track｝佐久間ダム

「Spring is just around the corner.」

「春本番間近」というのを英語ではよくこのように表現する。just around the corner というのは、「その角のすぐ先」を意味し、物理的な距離感を時間に置き換えた表現である。

2月下旬。まだ冬物のコートをクリーニングに出す前でもあるが、房総にはもう菜の花が咲き、水仙がちらほら見られる。まさに Spring is just around the corner と表現するのがぴったりな時期である。

そんな時期に、桜を見に行く。鋸南町にある佐久間ダムは河津桜の名所で、ここでは河津桜は『頼朝桜』という名でも親しまれている。桜を見に行くのはなんだか気が早まりすぎているような気もするが、それが旬であるのだから仕方がない。

佐久間ダムは山間につくられたダムで、河津桜はこの山間の土地を生かして山の斜面に沿って咲いている。山道を登るようにして作られた散策道を登っていくと、水仙と共に満開。左手には斜面に沿って咲く花々、右手には見下ろすダムとその奥にそびえる山々、前にはくねくね道とこの景色を一緒に楽しむ人々。

この地形のおかげで、先に行くまで景色がわからない。だから、ポイントごとにより違う景色が見られる。一面の水仙や、河津桜と水仙のコンビネーション、そして上に登れば登るほど、桜の咲き具合がどんどん変わって行く。下の方は満開の桜が、上に行けば行くほど葉桜ばかりに。

あの角の先にはどんな景色が待っているだろう。そんなわくわくを抱きながらの散策。楽しみは、just around the corner。春本番間近に、次の角へ歩みを進める。

文・写真　イシカワ