{track}高塚山登山道

千倉町大川にそびえる高塚山。この辺りの海岸に面した山々の中で最も高く、標高は216m。6月初旬、快晴でまだ春の気配を感じる心地よい風の吹く日に、山頂を目指してみることになった。梅雨がなかなか来ないことが少し寂しいような気分になりつつ、山登りには最高の気候である。


ここはただの山ではない。麓には「大聖院」と呼ばれる真言宗派のお寺が、その奥には「高塚不動堂」があり、不動明王が祀られている。このお不動さまは元々山頂に祀られていたが、1961年に今の場所に遷ることとなったのだそうだ。



安全に戻ってこれるようお不動さまにお参りをしてから、いざ頂上に向かう道へ進もう。

かわいらしい有機的なフォルムの階段が入り口でお出迎えをしてくれた。慣れない登山の出だしはお陰で順調。

続いて石板でつくられた階段を登る。階段続きで少し怯みそうになりながらも、よくよく考えるとこの急坂であれば、湿った土の坂よりも階段の方が圧倒的に楽に登れるのではないかと考えるに至った。先を生きた人の努力に感謝しながらさらに上へ。

蛇と出会い驚く。そして猪が通ったであろう土が連続して掘られたような痕のそばを、糞に気をつけながら慎重に歩く。動物の気配だけではなく、植物も荒れ荒れとしている山道。木々が人間の通り道にまで伸び伸びと根を張っている。

コントロールの効かない自然の中にいることを実感する。自分もここに生きていて、山の一部になってきた。

そこからしばらく倒木や獣道のある道を進むと、ついに見上げた先にゴールを示す鳥居が見えた。最後の階段は苔生した石畳でつくられており、凸凹した表面と滑りやすい苔に気をつけながらいよいよ頂上へ。

到着。お出迎えしてくれたのは風神・雷神門。そして狛犬や石碑など、今でも不動堂としての名残をみることができる。

この場をいつの日か飲み込んでしまうのではないかと思われるほど、青々と生い茂る木や草で覆われた山頂。人間の影はもはや薄く、自然が空気を読むこともなく本来の姿をあらわしている。そんな中でも偶然か意図的か、木々が一部開けた海側には、見晴らしの良い景色を望むことができた。

真言宗の本尊であり、森羅万象・大宇宙そのものを象徴する大日如来の化身とされる、不動明王。心の迷いや煩悩を取り除いてくれる仏さまであるのだという。この場に佇んでいると、いつも考え事ばかりしている頭がふと空っぽになり、ただただ流れる雲を見上げていた。

登れば登るほどに、より古い歴史、そしてより深い自然を感じる道のり。「異世界」という言葉が当てはまるほど、いつも見る街の景色とは大きく違う世界がここにはあった。お不動さまがこの山頂を離れてから60年以上経ち、開墾される前の姿に戻っていっているようだ。

文明が進化するスピードと、自然が自然に還るスピードは、もしかしたら同じくらいなのかもしれない。
この空を見上げていた空っぽの頭に、そんなことが浮かんだ。

写真・文 イシカワ

 
 
 
 
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